1.5%でも、家計の景色は軽くならない
2026年4月の東京23区消費者物価指数は、生鮮食品を除く総合で前年同月比1.5%上昇だった。前月の1.7%から鈍り、3カ月連続で日銀の2%目標を下回った。見出しだけなら、物価上昇はかなり落ち着いたように見える。
ただ、家計の実感はそこまで軽くならない。今回見えたのは、物価圧力の全面後退ではなく、政策で下がった価格と、買い物かごに残る価格が同時に存在する二層構造だ。1.5%という数字は、安心の合図というより、内訳を分けて読むべき数字になった。
数字を押し下げたのは政策の値下げだった
今回の鈍化で大きいのは、制度と補助金の影響だ。保育所保育料は東京都の無償化で100%下落した。ガソリンも政府補助の影響で9.9%下がった。電気代や都市ガス代も、補助の有無や設計によって物価指数を動かす。
これは、需要が弱くなって企業が値下げしたという話とは違う。政策が価格を直接下げれば、CPIは機械的に押し下げられる。だから、低いCPIをそのまま持続的な物価沈静化と読むと判断を誤る。重要なのは、補助が続く間だけ低いのか、補助なしでも基調が鈍っているのかだ。
食料は鈍っても、買い物かごには残る
生活に近い負担はまだ残っている。生鮮食品を除く食料は前年同月比4.6%上昇した。伸びが鈍ってきたとしても、全体のCPIが1.5%のときに食料が4%台で上がるなら、家計の体感は軽くなりにくい。
品目別では、コーヒー豆が60.2%、チョコレートが26.2%上昇した。輸入原料、為替、物流、メーカーの価格転嫁が重なる品目では、見出し物価よりも強い上昇が残る。物価は鈍化しているが、買い物の痛みは残る。この二つは同時に成り立つ。
魚介に入った中東リスク
もう一つ見落としにくいのが、生鮮魚介の8.9%上昇だ。魚介の価格は漁獲量だけで決まらない。船を動かす燃料、輸送コスト、冷蔵・保管、流通の人件費が重なって、食卓の価格になる。
中東情勢が影響する経路もここにある。原油や重油が上がれば、ガソリンだけでなく船舶燃料や物流費を通じて魚介や食品の価格に入り込む。エネルギー問題は、給油所の価格だけで終わらない。次のリスクは、外部ショックが食料価格に再び広がることだ。
日銀と政府が困るのは、1.5%の内側だ
日銀から見れば、東京コアCPIが1.5%まで鈍ったことは、利上げを急ぎにくくする材料になる。特に、全国4月CPIでも同じように2%を明確に下回るなら、物価上昇の勢いは弱まったという見方が強まる。
しかし、食料やサービスの上昇が残り、賃金がそれを十分に吸収できないなら、低いCPIは安心材料になりにくい。政府にとっても同じだ。補助金で物価指標を下げれば家計支援にはなるが、同時に、基調的な物価判断を見えにくくする。政策で下げた価格と、民間のコスト構造で残る価格を分けなければ、次の判断はできない。
次に見る数字は三つだけ
まずは2026年5月22日公表予定の全国4月CPIだ。東京の鈍化が全国にも広がるのか、それとも東京固有の保育料無償化が大きかったのかが分かる。ここで全国も弱ければ、日銀の慎重姿勢を支える材料になる。
次は2026年5月29日の東京5月CPI速報だ。保育無償化の影響を織り込んだ後も基調が鈍るのか、エネルギー補助や食品価格で再び押し戻されるのかを見る。1カ月後の東京は、今回の1.5%が一時的な押し下げだったかを試す数字になる。
最後は、賃金、家計消費、補助政策の組み合わせだ。毎月勤労統計で賃金が食料負担を吸収しているか、家計調査で値上がりが消費量を削っているか、エネルギー補助が継続・縮小されるか。この三つがそろって初めて、低いCPIを景気と生活の判断に使える。