景気・通商 / 2026.08.29 05:54

医療費49.2兆円、増えたのは受診回数より一日単価だった

49.2兆円の過去最高は、医療の一日単価と75歳以上の支出が保険料、税財源、企業負担へ広がる局面を示しています。

景気・通商の図

49.2兆円の過去最高は、受診回数の増加では説明できない

厚生労働省が2026年8月28日に公表した2025年度の概算医療費は49.2兆円だった。前年度から1.3兆円、2.6%増え、5年連続で過去最高を更新した。概算医療費は医療機関のレセプトを基に、医療保険と公費負担医療分を集計した数字で、国民医療費の大半を先に映す。

今回の数字で重要なのは、患者が医療機関に行く日数が増えたわけではない点だ。受診延日数は0.7%減った一方、1日当たり医療費は3.3%増えた。49.2兆円という総額は、受診回数よりも、1回・1日あたりの医療が高くなったことを強く映している。

動いた変数は総額、日数、単価、75歳以上の重さだ

診療種類別では、医科入院が19.6兆円で2.3%増、医科入院外が16.5兆円で1.6%増、歯科が3.5兆円で3.5%増、調剤が8.8兆円で3.9%増となった。受診日数が減っても、入院、外来、歯科、調剤のすべてで医療費は増えた。

とくに調剤は、処方箋枚数に相当する受診延日数が1.1%減った一方で、1日当たり医療費は5.0%増えた。ここに、医療費を単なる人口問題として扱えない理由がある。高齢化は確かに押し上げ要因だが、医療の高度化、薬剤、診療内容の変化が単価側から財源を圧迫している。

海外要因の通り道は、輸出入ではなく薬剤・医療機器の価格と為替にある。円安や国際的な医薬品価格が高コスト治療の採算に入ると、診療報酬や薬価の改定を通じて国内財源との綱引きになる。

増加分の多くは、保険料と税財源に移っていく

医療費の増加は、窓口で支払う患者負担だけで終わらない。直近の財源構成では、医療費の平均的な自己負担は約15%で、残りの約85%が医療保険から支払われる。その医療保険部分は、おおむね保険料が約53%、公費が約32%を担う。

つまり、1.3兆円の増加は、患者本人の財布だけでなく、会社員と企業が払う健康保険料、国と地方の税財源、保険者の財政に分配される。企業にとっては社会保険料という雇用コスト、家計にとっては手取りを抑える保険料、政府にとっては歳出の硬直化として表れる。

医療機関や薬局には収入増の面がある。ただし、それは人件費、設備、薬剤費の上昇を抱える供給側の余裕まで同時に保証する数字ではない。金融面では、この統計単独で金利が決まることは少ないが、社会保障費が毎年の歳出を硬くするほど、国債増発や財政運営への見方を通じて長期金利の制約として表に出やすくなる。

75歳以上が4割を占め、世代間の移転が太くなる

年齢別では、75歳未満の医療費が26.5兆円で1.7%増、75歳以上が20.3兆円で3.9%増だった。75歳以上は全体の41.3%を占める。1人当たりで見ると、75歳未満は26.1万円、75歳以上は98.9万円で、約3.8倍の差がある。

この差は、患者負担の差だけで吸収されない。後期高齢者の医療費は本人負担、保険料、公費、現役世代側の支援金が組み合わさって賄われるため、高齢層の単価上昇は制度間の資金移転を大きくする。

現役世代、企業、税財源が支える構造が強まるほど、賃上げ、社会保険料、財政再建、医療アクセスの議論は同じテーブルに乗る。医療費は「病院にかかる人の支出」ではなく、働く人の手取り、企業の人件費、政府の予算配分を同時に動かす価格信号になっている。

政策余地は、単価と負担配分の設計に寄っている

受診延日数が減っているなかで総額が増えたため、単純な受診抑制だけでは圧力を弱めにくい。制度が触れる変数は、診療報酬や薬価を通じた単価、予防や地域医療で変わる需要、自己負担・保険料・公費の配分、医療人材と病床の供給能力に分かれる。

政策上の制約は、どの変数を動かしても別の場所に痛みが出ることだ。窓口負担を上げれば受診控えと家計負担が増える。保険料に寄せれば現役世代と企業の負担が増える。公費に寄せれば国債、地方財政、他の歳出との競合が強まる。診療報酬や薬価を締めれば、医療機関、薬局、医薬品供給の持続性とぶつかる。

このニュースへの評価を変える数字は、次の概算医療費で受診延日数の減少が続くのか、1日当たり医療費が鈍るのか、75歳以上の支出比率がさらに上がるのかだ。2027年度予算編成で社会保障費の自然増をどこまで認め、どこを制度改革で吸収するかも、保険料と税財源への移り方を決める。

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