1地域1局の壁が、地方テレビでは2局まで開く
総務省は8月31日、テレビ局などに適用されるマスメディア集中排除原則を緩和する省令改正案について、電波監理審議会から原案を適当とする答申を受けた。関連制度は9月にも改正される方向で、地上テレビ放送では同じ放送対象地域において、一つの者が兼営・支配できる数を2局まで広げる。
ただし、在京キー局や在阪準キー局のような広域放送同士の統合まで開く制度ではない。制度の主な対象は、人口減少、テレビ離れ、広告市場の縮小にさらされる地方の県域局だ。
視聴者にとっての表面上の変化は、すぐにチャンネルが減ることではない。想定されるのは、一つの経営主体が二つのチャンネルを持つ「1局2波」で、リモコン上のチャンネルを残しながら、社内の管理、技術、営業、投資判断を束ねる形だ。
守る対象は、会社の数から地域情報の継続へ移る
マスメディア集中排除原則は、特定の事業者が複数の放送局を支配しすぎないようにすることで、多元性、多様性、地域性を守る仕組みだった。今回の緩和は、その発想を完全に捨てるものではないが、守り方を変える。
背景にあるのは、地方局の採算悪化だ。全国の地方局114社の2024年度営業利益は計250億円で、2015年度比57%減少したとされる。キー局・準キー局を含む13社の同じ期間の減少率より大きく、地方ほど経営余力が削られている。
ここで政策が置いた新しい前提は、経営主体の数が多いだけでは地域情報は守れない、というものだ。独立した局が残っても、制作費や人員を削り、地域ニュースが薄くなれば、多様性は形式だけになる。逆に、経営を束ねて浮いた固定費を取材網やデジタル配信に回せるなら、一つの主体が二つの波を持つ方が地域情報を残せる、という判断が成り立つ。
利益と負担は、地方局の外側にも移る
地方局にとっての利益は、合併、持ち株会社化、系列をまたぐ再編を選択肢にできることだ。管理部門、拠点、送出設備、営業企画を共通化できれば、単独では難しかった番組制作や配信、地域事業への投資余力が生まれる可能性がある。
同時に、負担も重い。二つの局を束ねるには、系列ネットワークとの関係、地元株主、従業員の処遇、番組編成、広告営業、システム統合を調整しなければならない。チャンネルを維持するなら番組枠も維持されるため、制作費が単純に半分になるわけではない。
視聴者には、地域の放送が途切れにくくなる利益がある一方で、二つのチャンネルの取材視点や編成が近づくリスクがある。広告主には、二つの局の枠をまとめて買いやすくなる利便性がある一方で、出稿先の交渉相手が減る。自治体にとっても、災害時の連絡先が安定する利点と、独立した報道接点が減る懸念が同時に生じる。
制度から採算改善へは、広告と系列の細い橋を渡る
この制度の伝わり方は、規制緩和、統合、コスト削減、地域情報への再投資という順番になる。だが、それぞれの段階には詰まりがある。制度上可能になっても、相手局の価値評価、系列契約、地元スポンサーとの関係、雇用調整で案件は止まり得る。
さらに、二つのチャンネルを維持する限り、報道、編成、番組購入、権利処理の費用は残る。削りやすいのは総務、人事、経理、設備運用の一部であり、地方局ではもともと小さな部門も多い。経営統合がすぐ大きな黒字転換につながるとは限らない。
制度が本当に効くのは、固定費の圧縮だけでなく、地域スポンサーへの提案力、配信を含めた視聴接点、災害情報の運用体制まで再設計できた場合だ。そこまで進まなければ、1局2波は産業再編というより、赤字化を遅らせる保険にとどまる。
9月施行後、最初の統合条件が制度の性格を決める
制度改正後に重要になるのは、最初の統合案件でどんな条件が示されるかだ。地域ニュースの放送量、取材拠点、災害時の人員配置、広告取引の透明性、二つのチャンネルの編成上の違いが具体的に語られれば、規制緩和は地域情報を維持するための制度として読める。
反対に、所有関係と営業体制の一体化だけが進み、地域番組や取材網の縮小が続けば、多元性を緩めて経営合理化だけを認めた制度だと受け止められる。行政の負荷もここにある。資本関係の上限を変えるだけでは足りず、地域性が実際に残っているかを継続的に評価する必要が出る。
今回のニュースは、地方テレビ局の再編解禁というだけの話ではない。放送行政が、局の数を増やす時代から、残る局に地域情報を担わせ続ける時代へ移ったことを示している。問いは、何社残るかから、誰がどの地域情報を最後まで担うかへ変わった。