土地取引の入口に国の審査が入る
高市首相に申し入れられた提言の中心は、重要土地等調査法の早期改正だ。安全保障上重要な施設の周辺や無人国境離島などで、土地の所有権移転を国の事前審査にかけ、リスクがあると判断した取引を不許可にできる制度を求めている。
現行制度の骨格は、土地の利用状況を調べ、問題があれば勧告や命令につなげるものだ。特別注視区域では一定面積以上の売買などに事前届出が求められるが、届出は許可とは違う。今回の変化は、国が情報を受け取るだけでなく、所有権移転の前に止める権限を持つ方向へ制度が動く点にある。
対象は外国人一般ではなく、重要施設周辺のリスク取引
この制度を「外国人による土地購入の全面規制」と読むと、焦点を外す。提言は、対象区域内で所有権移転をしようとする者に国籍を問わず申請を求める一方、外国政府等、その影響下にある者、外国の軍人、外国政府等への協力義務を負う者などを原則不許可の対象に置く考え方だ。
対象となる土地も、全国の不動産全体ではない。防衛関係施設などのうちドローン攻撃などの新しい脅威に脆弱な施設の周囲、おおむね1,000メートルの区域、そして周囲の目が届きにくい無人国境離島が軸になる。提言は、小規模な土地でもドローンの集積や離陸拠点になり得るとして、面積要件を置かない制度を求めている。
負担は買い手、売り手、不動産会社、登記実務へ広がる
許可制になると、負担は買い手だけに閉じない。買い手は国籍、住所、利用目的、法人の支配構造などを説明する必要が出る。売り手は、相手が許可を得られなければ契約が進まないリスクを抱える。不動産会社は、対象区域かどうか、許可申請が必要か、契約条件にどの程度織り込むかを確認する実務を負う。
金融機関や企業にも波及する。担保不動産、工場用地、物流拠点、M&Aで取得する子会社保有地が対象区域に入る場合、通常の不動産デューデリジェンスに安全保障上の許可リスクが加わる。無許可の所有権移転を無効にし、登記申請を却下できる制度まで入れば、契約後に気づくミスのコストはかなり大きくなる。
抑止力は実質的支配者を追えるかで決まる
許可制の目的は、危険な利用が始まってから止めるのではなく、取得段階でリスクの高い主体を排除することにある。ただし、名義上の買い手だけを審査しても、制度は抜け道を持つ。法人、ファンド、持ち株会社、信託、合併・分割を通じて土地が移る場合、実際に誰が支配しているかを国が把握できるかが中心問題になる。
提言が法人の実質的支配者の把握制度やデータ連携に触れているのはこのためだ。土地規制は、不動産のルールに見えて、実際には登記、法人情報、マネーロンダリング対策、経済安全保障、警察・内閣府の調査体制がつながる制度になる。ここが弱いと、許可制は書類を増やすだけで、リスク主体の迂回を止めにくい。
自治体には情報提供、国には審査人員という制約が残る
対象区域を抱える自治体にとっては、地域の不安を国の制度へ接続できる利益がある。地下水、廃棄物、土砂置き場、リゾート地の開発など、土地利用の問題は地域の現場で先に見えることが多い。国が取引情報を集め、自治体へ分析結果を返せるなら、地方の監視能力は上がる。
一方で、自治体だけでは安全保障上の主体確認までは担いきれない。国には、申請を滞留させない審査人員、法人支配情報を読む専門性、立入調査の手続、警察との役割分担が必要になる。許可制は、強い言葉ほど簡単には動かない。行政が処理できる件数と、対象区域の広さが釣り合わなければ、制度は抑止ではなく遅延として現れる。
法案で評価が変わる三つの線
第一の線は、対象の明確さだ。どの施設を対象にし、施設周辺の約1,000メートルをどう線引きし、無人国境離島をどこまで含めるのか。ここが曖昧だと、土地所有者や企業は自分の取引が対象かを判断しにくくなる。
第二の線は、権利制限への手当てだ。財産権への制約、国際約束との整合性、不許可時の理由提示、不服申立て、例外的許可、補償や買い取りとの関係が条文にどう書かれるかで、制度の受け止めは変わる。安全保障上の必要性があっても、対象と手続が粗ければ、運用段階で摩擦が大きくなる。
第三の線は、施行時期と体制だ。臨時国会で改正法案が出ても、区域指定、申請様式、電子申請、登記との接続、実質的支配者情報の整備が遅れれば、制度の効果は先送りになる。今回のニュースは、政治姿勢の表明であると同時に、国が土地取引を事前審査できるだけの行政能力を持てるかを問う始まりでもある。