産業政策 / 2026.05.29 09:07

未登記建物2割超、復旧を遅らせる見えないコスト

法務省調査で浮かんだのは、登記の漏れが災害復旧、税収、融資まで遅らせる行政インフラの弱さです。

未登記建物2割超、復旧を遅らせる見えないコストを読むための構造図

登記漏れは私事から復旧リスクに変わった

2026年5月28日、法務省の調査で、現存しているのに登記されていない建物が全体の2割超に上ることが分かった。未登記のままだと、大規模災害時に所有者確認に時間がかかり、復旧を妨げる。固定資産税の課税漏れにつながる懸念もある。

ここで変わった前提は、登記漏れを「持ち主が手続きを忘れている問題」と見て済ませられなくなったことだ。建物の登記は、所有者のためだけにあるのではない。自治体、金融機関、建設業者、保険会社が、誰の建物をどう扱えるかを判断する共通の地図でもある。

その地図に大きな空白があると、復旧政策は予算を積んでも現場に届きにくい。災害時に本当に問われるのは、支援額の大きさだけではなく、支援を届ける相手をどれだけ早く特定できるかである。

復旧を止める経路は所有者確認から始まる

未登記建物の影響は、所有者確認から補償、解体、再建、融資、課税へと順に広がる。建物が壊れた後に誰が所有者か分からなければ、行政は補助金や撤去費の支出を慎重に扱わざるを得ない。工事業者も、権限のない発注や後日の紛争を避けるため、作業に入るまで時間がかかる。

住宅再建でも同じことが起きる。登記情報と現況がずれていれば、担保設定、相続関係の整理、保険金や融資の手続きが複雑になる。被災者支援は制度として存在していても、建物の身元確認が遅れれば、生活再建の時計はそこで止まる。

つまり、未登記は紙の不備ではなく、復旧工程の最初に置かれたボトルネックだ。災害後に現地調査で埋めようとすると、人手も時間も足りなくなる。平時の台帳整備こそが、災害時の初動を左右する。

見るべき変数は2割超の内訳にある

2割超という数字は大きいが、政策判断に必要なのはその内訳だ。災害リスクの高い地域に集中しているのか、老朽建物や空き家に偏っているのか、住宅と事業用建物で差があるのかによって、優先順位は変わる。

もう一つの変数は、登記簿と自治体の固定資産税台帳、現地調査情報をどこまで突き合わせられるかだ。自治体が課税のために把握している家屋情報があっても、それが登記情報と制度的に滑らかにつながらなければ、災害時の権利確認にはすぐ使えない。

人員も制約になる。法務局、自治体、土地家屋調査士の処理能力が限られるなかで、未登記建物を一斉に解消するのは現実的ではない。災害危険地域、老朽建物、公共事業予定地など、詰まったときの社会的損失が大きい順に処理する設計が必要になる。

当事者ごとに動けない理由が違う

所有者側には、費用、書類、相続関係、古い増改築の履歴といった壁がある。義務を強めるだけでは、手続きが複雑な人ほど動けない。登記を促すなら、簡素な相談導線や専門職への接続、古い建物をどう扱うかの実務基準が必要になる。

自治体側は、税収と復旧の両面で利害を持つ。固定資産税の課税漏れを防ぎたい一方で、台帳情報を別制度に使うには個人情報や権限の整理が要る。法務局側も、登記官が職権でどこまで情報を集められるかが制度設計の焦点になる。

金融機関や不動産会社にとっては、未登記建物は担保と取引の不確実性だ。売買、相続、再建融資、解体を伴う開発では、登記の穴が後から費用と時間に変わる。経営判断としては、物件の価格だけでなく、登記と現況の一致を事前に見る姿勢が強まる。

採算に効くのは税収、融資、工事の遅れだ

未登記建物が自治体財政に与える圧力は、固定資産税の課税漏れだけではない。災害後に所有者確認が長引けば、応急対応、現地調査、相談窓口、権利調整に追加の行政コストがかかる。復旧が遅れれば、地域の営業再開や人口回復も遅れる。

建設・解体業者にとっては、発注者の権限が明確でない案件は進めにくい。金融機関にとっては、担保にできるか、再建資金を出せるか、相続人全員の同意が取れているかが問題になる。未登記は、現場では売上機会ではなく、回収不能や紛争のリスクとして見られやすい。

だから、この問題の採算は一社の利益率だけでは測れない。所有者の手続き負担、自治体の徴税と復旧費、金融機関の与信、建設業者の工程リスクが一つの鎖でつながっている。どこか一つが詰まると、地域全体の復旧スピードが落ちる。

次の焦点は強制より実装の設計だ

法務省は、さらに詳しく調査し、所有者に登記履行を促すとともに、登記官が職権で情報収集できる方策を検討する方針だ。ここで重要なのは、登記しない人をただ責めることではない。古い建物、相続未整理、増改築、空き家など、登記が止まる理由に合わせて手続きを変えられるかである。

次に判断を変える材料は三つある。第一に、未登記建物の地域別、用途別、築年別の内訳。第二に、法務局と自治体の情報連携に必要な権限と予算。第三に、所有者が実際に登記へ動く費用と手間の軽減策だ。

この三つがそろえば、未登記建物の問題は災害復旧の弱点から、平時に減らせるリスクへ変わる。逆に、追加調査だけで現場の処理能力や所有者の負担が変わらなければ、2割超という数字は警告のまま残る。