政治・政策 / 2026.06.07 05:25

タングステンは許可待ちの資材になった

製造業の調達が行政許可に従属し始めたことだ。

タングステンは許可待ちの資材になったを読むための構造図

許可が供給の入口になった

中国税関統計では、今年1月に中国から日本へ炭化タングステン約14トン、タングステン粉末約10.5トンが輸出されていた。ところが2~4月は、いずれもゼロになった。タングステンは金属加工の切削工具などに広く使われ、中国が世界生産の大きな部分を占める。

重要なのは、単に一時的な品薄が起きたことではない。これまでメーカーは価格、品質、納期を比べて調達していた。いまはその前に、輸出許可が出るか、最終用途をどう説明できるか、通関で止まらないかという行政上の門を通らなければならない。調達競争の入口が市場から制度へ移った。

小さな素材が大きく効く理由

タングステンは工場の投入量としては大きくない。それでも、硬い素材を加工する工具や超硬合金に入り、代替品へすぐ置き換えにくい。少量の部材でも、仕様に合うものがなければ機械加工の納期や受注判断に影響する。

伝わり方ははっきりしている。規制が輸入途絶のリスクを高める。企業は第三国、在庫、リサイクル材、別仕様の材料へ向かう。そこで調達コストが上がり、切削工具や加工部品の価格、納期、受注制限に波及する。代替調達で価格が大きく上がるケースが出ているのは、この途中で希少性の取り合いが起きているからだ。

判断を分ける四つの変数

第一は許可対象の広さだ。炭化タングステンと粉末だけなのか、関連加工品や第三国経由、特定の最終需要家まで厳しく見るのかで影響範囲は変わる。第二は代替ルートの容量で、欧州やアジアの供給、スクラップ回収、国内加工がどれだけ仕様と量を満たせるかが焦点になる。

第三は在庫の持続時間だ。手元在庫が数週間なのか数カ月なのかで、価格上昇は吸収できるコストで済むのか、納期遅延に変わるのかが分かれる。第四は価格転嫁の許容度だ。工具メーカーが上がった原料費を自動車、機械、電子部品の顧客へ移せなければ、負担は中間企業の利益を削る。転嫁できれば、最終製品や保守部品の価格にも薄く広がる。

負担と利益はここで分かれる

商社と輸入企業には、最終用途の確認、書類整備、通関対応という実務負担が増える。メーカーには、代替材の試験、顧客承認、在庫積み増し、納期調整が乗る。日本の省庁は、企業から情報を集め、重要鉱物支援や備蓄、国際調達の支援を組み替える必要がある。

一方で、利益を得る側もある。中国以外の供給者、リサイクル事業者、在庫を持つ企業には希少性による上乗せ収益が生まれる。下流の買い手は、短期的には納期リスクと値上げを受け入れるか、仕様変更の手間を負う。家計への影響はただちに大きく見えにくいが、工具、補修部品、設備更新のコストを通じて、時間差で価格に混ざる。

政府が動かせる範囲と限界

日本側が短期に動かせるのは、情報共有、在庫の可視化、重要鉱物の調達支援、リサイクルや代替材の投資支援だ。経済産業省、JOGMEC、通関・貿易実務に関わる当局が企業の詰まりをどこまで早く把握できるかで、個社の問題を産業全体の政策対応へ変えられる。

ただし、鉱山開発や製錬・加工能力の増強は数カ月で立ち上がらない。品質認証や顧客承認も必要になる。中国側の許可運用が地方の通関現場でどう実装されるかも、日本側から直接は制御しにくい。だから今回の政策課題は、資源を持つかどうかだけでなく、許可、書類、在庫、加工能力を含む執行能力の問題になる。

次に見るべきサイン

まず見るべきは、5月以降の中国税関統計で対日輸出が戻るかどうかだ。戻る場合でも、民生用途に限って許可が出たのか、対象企業や品目の範囲が緩んだのかを分けて読む必要がある。企業側では、切削工具や超硬素材メーカーの受注制限、納期遅延、価格改定、業績予想への織り込みが実務上のサインになる。

シナリオは三つある。許可が再開し、価格上昇が一時的な在庫調整で収まる。ゼロ輸出が続き、代替調達の高値が生産計画に入り込む。対象が他の重要鉱物や最終需要家へ広がり、経済安全保障の摩擦が常態化する。見方を変える条件は明確だ。輸出が通常水準に戻り、価格差が縮み、メーカーが納期と受注を正常化できれば急性リスクは後退する。そうならなければ、タングステンは市場で買う資材ではなく、政策の許可を待つ資材として扱うべきになる。