料金比較から継続接点の勝負へ
JALモバイル powered by ahamoは、表面だけ見れば分かりやすい上乗せ商品だ。月2970円、30GBというahamoの料金・容量を維持し、JAL側のマイル特典を加える。年1回、通常往復7000マイルが必要などこかにマイルを1500マイルで使えるクーポン、毎月125マイル、新規契約1000マイル、ドコモ以外からのMNPで5000マイル、搭乗時のボーナスマイル、Life Statusポイントが並ぶ。
ただし、このニュースの本質はお得かどうかの比較だけでは見えない。変わった前提は、通信料金が単独の値下げ競争から、航空会社のロイヤルティと結びついた継続利用モデルへ移ることだ。ドコモにとってahamoは低価格帯の主力ブランドであり、JALにとってモバイル契約は日常的に会員と接触する入口になる。
通信サービスは毎月使われる。航空券は頻繁には買われない。この時間軸の違いをつなぐのがマイルであり、提携の狙いはそこにある。毎月の通信契約が続くほどマイルがたまり、マイルがたまるほどJAL便や特典航空券を意識する。その循環を作れるかが、単なる料金プランとの違いになる。
採算を決める六つの変数
この提携の採算は、加入者数だけでは判断できない。見るべき変数は六つある。通信ARPU、マイル原資、解約率、航空利用頻度、顧客獲得コスト、提携チャネルの送客力だ。
通信ARPUは月2970円を出発点にするため、大きく上振れしにくい。したがって通信側の価値は、より高い料金を取ることより、獲得費用を下げ、解約を抑え、低価格ブランドの差別化を強めることにある。ahamoをJALの顧客接点に載せることで、通常の広告出稿とは違う形で見込み客に届くかが問われる。
JAL側では、マイル原資が重要になる。マイルは利用者にとって魅力だが、航空会社にとっては将来のサービス提供義務であり、需要を誘導する販促手段でもある。月125マイルや割引クーポンが、搭乗頻度、カード利用、JAL経済圏への滞在時間を押し上げるなら投資になる。そこまで届かなければ、費用の先出しにとどまる。
供給網への影響も、基地局や機材の話ではなく販売の供給網に出る。通信機能を航空会社ブランドの入口で販売するB2B2Cの形が広がれば、通信会社は自社サイトや店頭だけでなく、生活圏を持つ企業を獲得チャネルとして使う競争に入る。
マイルはどの順番で利益に変わるか
流れは、通信契約、継続利用、マイル付与、航空利用、顧客理解、再販促の順に見ると分かりやすい。利用者が通信契約を続けると毎月マイルがたまり、JAL側には航空以外の日常接点が生まれる。そこから特典航空券や搭乗ボーナスを通じて、航空利用へ戻す導線ができる。
この導線が機能すれば、JAL側ではロイヤルティが強くなる。航空券を買う直前だけでなく、通信料金を払う毎月のタイミングでJALを思い出すからだ。顧客データも、同意と契約の範囲で、通信契約という日常接点と航空利用の接点を重ねて理解する材料になる。
ドコモ側では、JALという提携チャネルが送客力を持つかが焦点になる。通常のahamoと同じ料金でマイルが付くなら、JALマイルをためる利用者にとって選びやすい。広告費を積んで獲得する代わりに、航空会社の会員基盤から効率よく契約を得られるなら、低価格ブランドの採算に意味が出る。
三者それぞれに残る制約
通信側の制約は、低価格ブランドの採算と差別化だ。ahamoと同じ料金で追加特典を付ける以上、どこかで費用を負担する構造になる。獲得効率や解約率改善が伴わなければ、低価格ブランドの利益を薄くするだけになりかねない。
航空側の制約は、マイル負担と非航空接点の拡張のバランスである。JALは航空券を売る会社であると同時に、マイルを通じて生活接点を広げる会社にもなっている。通信契約はその拡張に向くが、マイルを配るほど将来の負担も増える。搭乗や関連消費へ戻せる設計が欠かせない。
利用者側の制約はもっと単純だ。月額料金の差、マイルの価値、海外利用、申込手数料、既存契約から移る手間を比べる。マイルを使わない人にとっては価値が薄く、JALをよく使う人にとっては通常のahamoより魅力が大きい。つまり、万人向けの値下げではなく、利用者の生活動線に依存する商品だ。
勝ち筋は販促費の置き換えを超えられるか
経営判断として問われるのは、この提携をキャンペーンで終わらせるか、継続率を高める仕組みに育てるかだ。新規契約やMNPのマイル付与は分かりやすいが、一度きりの獲得施策で終われば、広告費をマイルに置き換えただけになる。
勝ち筋は、通信契約の継続が航空利用を増やし、航空利用がさらに通信契約を続ける理由になる循環を作ることだ。例えば、どこかにマイルの割引クーポンが実際の旅行を生み、その旅行後もJAL便やJALマイルを意識する状態が続けば、マイル原資は販促費ではなくロイヤルティ投資に近づく。
逆に、加入者の多くが既存ahamo利用者や既存JALファンの移行にとどまり、解約率も航空利用頻度も変わらないなら、採算は厳しくなる。表面上の契約数が伸びても、増分の顧客と増分の搭乗がなければ、ビジネスモデルの変化とは言いにくい。
次に見るべき信号
最初の信号は、提供開始後の申込内訳だ。新規契約、ドコモ以外からのMNP、既存ahamoからの移行、既存JALモバイル利用者の動きが分かれるほど、提携の性格が見える。特にMNPが強ければ送客力の証明になり、既存利用者の移行中心なら囲い込み施策に寄る。
次の信号は、解約率と利用継続だ。月125マイルは小さく見えるが、毎月の通信料金にロイヤルティを埋め込む仕組みである。これが通常の低価格プランより長い契約期間につながるなら、通信側の顧客獲得コストを回収しやすくなる。
最後に見るべきは、航空利用の増加である。どこかにマイルの割引クーポンが使われ、搭乗ボーナスが実際の搭乗を後押しし、JALの会員接点が広がるなら、提携は航空と通信の双方に効く。ここが動かなければ、見栄えの良い特典を付けた料金プランに戻る。