政治・政策 / 2026.07.31 06:58

原発の地震動審査、電力会社は計算過程まで問われる

電力会社が計算条件、資料、選定理由をどこまで立証するかに移っている。

原発の地震動審査、電力会社は計算過程まで問われるを示すニュースイメージ

審査ガイド改正は、不正対応を制度変更にする

2026年7月29日の原子力規制委員会では、中部電力の不正行為を踏まえ、地震動評価プロセスをどう明確にするかが議題になった。ここで重要なのは、浜岡原発3・4号機の個別不正を処分して終わる話から、原発の耐震審査そのものの運用を変える話に広がった点である。

基準地震動は、原発の耐震設計の土台になる。これまでも最終的な評価値や解析条件は審査されてきたが、今回の問題で浮かんだのは、計算の途中でどの候補を採り、どの候補を外し、なぜその波を代表としたのかという「作り方」の信頼性だった。

審査ガイド改正の意味は、規制委が電力会社に対して、結果だけでなく過程の説明責任をより強く求める方向に動くことにある。制度としては、電力会社の申請書類、追加資料、計算ログ、委託先管理、審査会合での説明の粒度が変わる。

論点図

浜岡で崩れたのは「平均に近い波」という約束だった

中部電力は2019年1月の審査会合で、統計的グリーン関数法を用いた地震動評価について、計算条件の異なる20組の地震動を計算し、その平均に最も近い波を代表波として選ぶ方法を説明していた。統計的グリーン関数法は、小地震の揺れをもとに大地震の揺れを計算する手法で、複数の候補から代表的な波を選ぶ運用が生じる。

同社が2026年1月に公表した内容では、実際には2018年以前から、20組の地震動と代表波のセットを多数作り、その中から一つのセットを選んでいた。また2018年ごろ以降には、先に平均に最も近いとはいえない波を代表波として選び、その代表波が平均に近く見えるよう残りの19組を組み立てる方法もあった。

2026年7月1日の規制委会合では、規制庁から調査依頼を受けた後にも、一部の検討用地震で代表波を除く地震波の組み換えが行われていたことが説明された。これにより、問題の中心は「数値が高いか低いか」だけではなく、「審査に示された説明が、実際の作業履歴と一致していたか」へ移った。

負担は規制委から電力会社、自治体説明まで順に移る

制度変更が実務に伝わる経路は単純ではない。規制委がガイドを改めると、まず審査官の質問項目と資料要求が変わる。次に電力会社は、地震動評価の計算条件、候補波の一覧、代表波の選定理由、除外した候補の扱い、委託先への指示や納品物の記録をそろえる必要が出る。

その負担は自治体にも及ぶ。原発の許認可は国の規制手続きだが、再稼働の実務では地元自治体への説明と地域の理解が欠かせない。ガイド改正で資料が増えれば、自治体は安全性説明の根拠をより細かく問える一方、住民に説明する論点も増える。

地域住民と地元企業にとっての利益は、評価過程の透明性が高まり、説明の根拠を追いやすくなることだ。電力会社にとっての負担は、追加解析、資料整備、委託先管理、審査期間の延びとして現れる。家計や企業には、ただちに電気料金が変わるというより、原発再稼働時期の不確実性を通じて、電力調達や地域経済の見通しに影響が出る。

規制委にも、人員と専門性の天井がある

審査を厳しくすればするほど、安全性の説明は厚くなる。しかし、規制委側にも専門人員、審査時間、予算の制約がある。すべての波形計算を規制側が一から再現する方式に寄せれば、審査は膨大になり、逆に重要な論点が埋もれるおそれがある。

現実的な制度設計は、電力会社に全作業履歴を丸ごと出させることではなく、後から追える記録を残させ、規制側が重要部分を検証できる形にすることだ。代表波を選んだ理由、候補を除外した理由、計算条件を変えた履歴、委託先との指示系統がつながっていれば、数値だけでは見えにくい不自然さを拾いやすくなる。

企業実務では、これは技術部門だけの仕事では済まない。品質保証、調達管理、文書管理、法務、経営層の監督が関わる。浜岡の問題が重いのは、地震動評価という専門技術の問題に見えて、実際には組織が不都合なデータをどう扱うかという統治の問題でもあったためだ。

既存審査への適用範囲が、最大の分かれ目になる

今後の分岐は三つある。第一に、改正ガイドを将来の申請や新たな評価に主に使う場合、制度変更の負担は比較的限定される。第二に、審査中の原発にも追加資料を求める場合、審査会合の日程や事業者の準備期間に影響が出る。第三に、既に一定の評価が進んだ案件にもさかのぼって記録や再現性を問う場合、原発ごとの再稼働時期の読み方が変わる。

この見立てを変える材料は、改正案の具体度、意見募集で出る専門家や事業者の反応、最終ガイドの文言、既存審査案件への適用範囲である。浜岡原発については、規制検査と第三者調査の結果、自治体への説明、個別審査の再開条件が重なる。

裁判にも影響がある。基準地震動をめぐる争いでは、従来から評価手法や不確かさの扱いが争点になってきた。ガイドが計算過程の記録をより明確に求める方向へ進めば、法廷で問われるのも、最終的な揺れの値だけでなく、そこへ至る過程の説明可能性になる。

家計と企業への意味は、再稼働時期の読みづらさにある

今回のニュースは、政策面では原子力規制の執行をどう強めるかという話であり、生活面では電力供給の時期をどう読むかという話でもある。原発の再稼働が早まるか遅れるかは、電力会社の燃料調達、火力発電の稼働、地域の産業誘致、自治体の防災説明に連鎖する。

見方を変える点は、地震動審査を「何ガルか」という数字だけで受け止めないことだ。制度が問う対象は、数字から、数字を作る手順、手順を残す記録、記録を説明できる組織へ広がっている。浜岡の不正が突きつけたのは、原発の安全審査で最も高価になるのは追加計算そのものではなく、信頼を取り戻すための立証コストだという現実である。

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