入試が認めたのは、答案ではなく準備のプロセス
近畿大学情報学部は、2027年度の総合型選抜で、各出願書類作成の一連の過程における生成AI活用を認める方針を示した。対象になるのは、自己PR動画、志望理由書、活動報告書などの準備であり、第2次審査ではプレゼンテーションと口頭試問がオンラインで行われる。
ここで変わった前提は、生成AIを入試から排除するかどうかという二択ではない。AIを使える場面を認めたうえで、本人の関心、経験、工夫、思考の深まりをどう測るかへ重心が移った。生成AIは、完成物を代わりに作る外部者ではなく、受験生の準備過程に入る道具として扱われ始めた。
技術面でいえば、モデル性能そのものが新しくなった話ではない。生成AIの配布範囲が、授業や個人学習から、選抜という高い利害を持つ手続きへ広がったことが大きい。アイデア出し、構成検討、スライド作成の速度と費用は下がる一方、どこまでAIに任せ、どこから本人の判断とするのかという制約が前面に出る。
合否を左右するのは、AIの有無より説明できる使い方
この方針で大事になる変数は五つある。AIを使った工程、入力した情報の適切さ、出力を検証したか、本人の経験や能力と結びついているか、最後に自分の言葉で説明できるかだ。AIを使った事実そのものは強みにならない。強みになるのは、AIとのやり取りを通じて何を考え直し、どの判断を自分で引き受けたかである。
近畿大情報学部の総合型選抜は、情報分野への関心やプログラム作成経験、情報系コンテスト、資格などを重視する。生成AIの活用が認められても、口頭試問で問われるのは、提出物の背後にある理解と意欲だ。書類が整っているだけでは足りず、AIが出した案をなぜ採用し、どこを捨てたのかまで語れるかが差になる。
この構造は、AI検知ツールで見抜けるかという話より実務的だ。生成AIらしい文章を探すより、提出物、プレゼン、口頭での応答をつないで、本人の思考の連続性を確かめるほうが選抜としては強い。AIの利用を認めるほど、面接や口頭試問の役割はむしろ重くなる。
ルールは受験生から高校、塾、AIツールへ広がる
入試の方針が変わると、影響は受験生だけにとどまらない。高校の進路指導は、AIの禁止を伝えるだけでは足りず、使える場面、入力してよい情報、引用や権利の扱い、本人の説明責任を教える必要が出る。塾や進学支援サービスも、志望理由を代筆するサービスではなく、経験を掘り起こし、検証し、語れる形に整える支援へ寄せられる。
開発者やEdTech企業にとっても、競争軸は単に賢いモデルを提供することから動く。学校や入試で使えるAIには、利用履歴、引用、個人情報保護、年齢や学校アカウントに応じた権限制御、提出物との紐づけが求められる。モデル、データ、インフラ、権限のうち、今回のニュースで前に出たのは権限と履歴である。
企業導入にも同じ含意がある。会社が生成AIを使うとき、最初に詰まるのは性能の不足だけではない。社内データを入れてよいか、成果物の責任を誰が持つか、利用ログを残すか、知財をどう扱うかである。入試で起きている摩擦は、組織がAIを実務に入れるときの縮図でもある。
大学側の制約は、公平性と真正性を同時に守ること
大学側には二つの制約がある。一つは、公平性だ。生成AIを使える家庭、使い慣れた高校、指導できる塾がある受験生ほど準備の質を上げやすい。利用しない受験生が不利にならない運用を掲げるなら、評価基準は成果物の見栄えより、本人の経験、理解、説明力へ寄せる必要がある。
もう一つは真正性だ。志望理由書や活動報告書、スライドにAIが関わるほど、提出物が本人の関心や能力を反映しているかを確かめる必要が高まる。口頭試問で、制作過程、参考にした情報、修正した理由、失敗から学んだ点を問えるかが、制度の信頼を左右する。
知財とセキュリティも無視できない。生成AIに入力した個人情報、他人のコードや画像、著作物を含むスライドや動画は、入試資料として残る可能性がある。受験生にとっては、AIを使う能力だけでなく、入れてよい情報と使ってよい素材を選ぶ能力も評価に近づいていく。
この動きが本物になる条件は、2026年秋の運用で分かる
近畿大情報学部の2027年度総合型選抜は、2026年9月1日から12日まで出願を受け付け、10月24日に第2次審査、11月7日に合格発表が予定されている。ここで重要なのは、AI利用を認める文言が、実際の評価でどこまで具体化されるかだ。利用の有無だけでなく、使った工程や学びを受験生が語る場面が増えれば、この方針はAIリテラシーを選抜に組み込む動きになる。
見方が強まるシグナルは、他大学や他学部が同様の方針を出すこと、募集要項に利用履歴や説明責任の扱いが書かれること、口頭試問でAI利用を前提にした質問が設計されることだ。文部科学省も大学入試業務での生成AI活用について、人間との役割分担や情報環境、セキュリティ対策のガイドライン化を進めており、大学ごとの実務は今後そちらとも接続していく。
反対に、方針が弱まる条件もはっきりしている。AI利用を認めながら評価基準が曖昧なままなら、表現を整えた受験生が有利になり、本人の思考を測る制度にはならない。生成AI容認の意味は、AIを使ってよいという許可ではなく、AIを使った後の人間の判断をどう測るかにある。