変わった前提は、利益より先に金利を見る相場になったこと
20日の東京株式市場で、日経平均株価は前営業日比746円18銭安の5万9804円41銭で終えました。5営業日続落となり、節目の6万円を終値で約3週間ぶりに下回ったことが注目されました。下げ幅は一時1200円を超え、値下がり銘柄はプライム市場の大半に広がりました。
このニュースを単なる株安として読むと、見落とすものがあります。今回動いた中心は企業利益の実績ではなく、長期金利です。米10年債利回りはインフレ警戒を背景に高水準へ上がり、日本でも長期金利が29年ぶりの水準まで上昇する場面がありました。株価はその変化を、将来利益の割引率上昇として受け止めました。
つまり、相場の問いは「どの企業が伸びるか」から「どの企業が高い資金コストに耐えられるか」へずれています。AI・半導体のように将来成長への期待が大きい銘柄ほど、金利上昇で評価が揺れやすいのはそのためです。
動いた変数は、金利、原油、円、信用、期待の五つ
第一の変数は長期金利です。国債利回りの上昇は、政府の利払い、金融機関の運用、企業の借り入れ、住宅ローンの基準になるため、株価より広い範囲に効きます。第二の変数は米金利です。日本株の割高感は国内金利だけでなく、米国債という比較対象にも左右されます。
第三の変数は原油価格です。中東情勢への警戒で原油が高止まりすると、輸入物価を通じて企業のコストと家計の実質所得を圧迫します。第四の変数は円相場です。円安は輸出企業の採算を助ける面がある一方、エネルギーや食料の輸入コストを押し上げ、内需企業と家計には負担になります。
第五の変数は期待です。株価が下がるだけなら市場内の調整ですが、企業が設備投資や採用を慎重にし、家計が大きな支出を先送りし、政策当局が物価と景気の両にらみを強めると、期待の変化は実体経済に移ります。
圧力は金融市場から、企業計画と家計心理へ進む
伝達経路ははっきりしています。長期金利の上昇は、まず株式の評価倍率を下げます。次に社債利回りや銀行融資の条件へ波及し、借り換えや新規投資の採算を厳しくします。ここで影響を受けやすいのは、成長投資を借り入れや資本市場に頼る企業、不動産、再エネ、半導体製造装置など投資額の大きい分野です。
企業側では、資金調達コストが上がると、設備投資の回収期間が長い案件から見直し対象になります。輸出企業は円安の利益押し上げを受けても、海外需要の鈍化や米金利上昇による顧客の投資抑制に直面します。利益率の高い企業は耐えやすく、借入依存度が高い企業ほど負担が早く出ます。
家計側では、株安による資産効果の低下、住宅ローンや消費者信用の金利上昇、輸入物価の上昇が重なります。賃金が物価に追いついている間は消費が支えになりますが、実質所得が再び圧迫されると、耐久財や旅行、外食などの選択的支出から弱さが出ます。
得る側と負担する側は同じ国内にいる
金利上昇には得る側もあります。預金者、保険会社、年金基金、利ざやを確保できる銀行には、運用収益や金利収入の改善余地があります。財務の強い企業も、競合の資金繰りが厳しくなる局面で相対的に優位に立てます。
負担を負うのは、政府、借入依存の企業、住宅ローンを抱える家計、そして高い成長期待を株価に織り込まれてきた企業です。政府にとっては国債利払いの増加が財政余地を狭め、景気対策を打つほど金利上昇懸念を招くという制約が強まります。
日銀の制約も大きくなります。物価が原油高や円安で押し上げられるなら、景気が弱くても緩和に傾きにくい。一方、金利上昇が信用収縮や急な株安につながれば、金融安定への配慮が必要になります。政策判断は、物価だけでも株価だけでも決めにくくなっています。
市場が織り込んだもの、まだ織り込んでいないもの
すでに織り込まれたのは、高PER株の評価倍率低下です。AI・半導体株の売りは、成長期待が消えたというより、同じ成長期待をより高い割引率で評価し直した動きです。これは市場調整としては自然です。
まだ十分に織り込まれていないのは、企業計画の実際の修正です。設備投資、採用、研究開発、在庫計画が下がるかどうかは、株価の一日では分かりません。ここが動くと、金融市場の調整は景気見通しの下方修正に変わります。
過剰反応だったと言える条件もあります。日本と米国の長期金利が落ち着き、原油高が一服し、円安が輸入物価を追加で押し上げず、主要企業の業績見通しが維持される場合です。その場合、6万円割れは成長期待の崩壊ではなく、過熱した評価の調整として読み直せます。
次に見る順番は、政策発言、企業見通し、設備投資
最初に見るのは政策当局の言葉です。政府が財政拡張を強く示せば国債需給への警戒が残り、日銀が物価警戒を強めれば金利上昇圧力が続きます。反対に、財政規律や市場安定への配慮が明確になれば、金利上昇の連鎖は弱まります。
次に見るのは企業のガイダンスです。輸出企業、半導体関連、不動産、金融、内需サービスが、金利と為替と原油の前提をどう修正するかが重要です。株価より先に、受注、在庫、設備投資計画、採用計画の言葉が変わるかを追うべきです。
シナリオは三つです。第一は、外需が鈍っても内需が賃上げで支える展開。第二は、企業計画と政策見通しが先に下振れする展開。第三は、外需と内需が同時に弱り、株安、信用条件の悪化、消費減速が重なる展開です。いまの分岐点は、どれが正しいかではなく、どの経路が最初に現実の数字へ出るかです。